農業(果樹・花き・その他)

気候変動の影響

  • 夏期の高温による果実の品質低下(ぶどうの着色不良、みかんの浮皮等)
  • 冬期の低温不足による果樹の発芽不良、暖冬による害虫の越冬数の増加
  • 夏期の作業開始時間の前倒し、草刈り時の作業負担の増加

これまでの調査の報告と将来予測

果樹

  • 北部地域の特産品である栗では、大型台風による倒木、枝折れによる収量の低下が発生しています。
  • 中部および南河内地域の特産品であるぶどうでは、短時間強雨による裂果の増加、長雨による病害の発生、高温による着色不良と秀品率低下、収穫時期の前倒し、ハダニやべと病の増加が起きています。
  • 泉州・南河内地域の特産品であるみかんでは、高温による「日焼け果」や「着色遅延」などの増加が起きています。

高温による巨峰の着色不良(左:正常果  右:着色不良果)

花き

  • パンジーでは、夏の高温で発芽・生育不良が発生しています。
  • お盆用のきくでは、夏の高温で開花をお盆の時期に合わせることが難しくなっています。
  • アイリスでは、お正月に向けて12月20日ごろに開花してほしいものが、暖冬によって12月上旬に開花してしまうことが起きています。
  • 一方で、ゆりでは、暖冬により12月まで暖房が不要なまま栽培できるようになってきています。

農作業(熱中症)

  • 大阪の農業者は、高温のため昼間に作業できず、早朝から午前10時ごろまで作業する方が増えています。
  • 草刈りや農薬散布の作業は、猛暑が続くため、これまでに比べて大きな負担になっています。

 

気候変動への適応策

果樹

■大阪の農業者の取組

    • 北部地域の特産品である栗では、豪雨などで根が腐ることを防ぐために植穴を大きくする対策がとられています。
    • 中部および南河内地域の特産品であるぶどうでは、ハウスの天窓と側窓を自動開閉できる装置の設置や、「環状はく皮」を施して、高温対策を行っています。
    • 泉州・南河内地域の特産品であるみかんでは、乾燥対策にスプリンクラーを設置して潅水の作業負担を軽減しています。

■環農水研の取組

環農水研では、大阪特産のぶどうについて、重点的に取組を進めています。

🍇高温によるぶどうの着色不良対策

      • 樹皮を環状にはいで着色改善をはかる技術である「環状はく皮」の効果を2018年から継続的に調査し、樹勢への悪影響がないことを確認しています。また、広く生産者に情報提供するために、生産者向けの講習会などで紹介するとともに、作業の様子を環農水研YouTubeチャンネルで公開しています。

着色促進に効果的なぶどう主枝への環状はく皮~作業風景~

環状はく皮を施したブドウの幹

      • 着色促進効果が確認されていた植物ホルモンの一種の「アブシジン酸」の実用性をメーカーや全国の公設試験場とともに検討し、「巨峰」と「ピオーネ」で農薬登録(令和4年10月26日付、登録番号24662)されました。

🍇予測モデルの開発

      • ぶどう栽培において発育は農薬散布などの栽培管理の指標となっています。一方、近年の温暖化の影響で、発育の早期化が進んでおり、これまでの経験を指標に栽培管理をすることが難しくなってきています。そこで、気温を使った発育予測モデルの開発を試みました。
      • 「デラウェア」では、種なし化のための植物ホルモン(ジベレリン)の処理を適期に行うことができれば、品質向上につながります。ジベレリン処理適期は、「デラウェア」の新梢の展葉数(今年の枝についた葉の枚数)が指標とされています(※1)。環農水研では、過去の気温と展葉数の関係から、日々の気温からジベレリン処理適期を予測する新しいモデルを開発しました(※2)。これにより、ジベレリン処理適期を精度よく予測することが可能になりました。

展葉枚数を指標として種なし化のためにジベレリン処理を実施

(左:展葉(2枚)  中:ジベレリン処理  右:デラウェアの果実)

      • 発芽日についても、露地栽培の「デラウェア」において予測モデルを開発し(※3)、農薬散布などの管理に役立ててもらうため環農水研ホームページで予測日を情報提供しています。今後は、露地栽培以外の作型でも利用できるモデルの開発を進めていきます。

デラウェアの発芽の様子

      • 将来の気温上昇が露地栽培の「デラウェア」の休眠覚醒、発芽、満開にどのような影響を与えるかを予測できれば、適応策の検討に役立てることができます。環農水研では、メッシュ農業気象データの温暖化シナリオを用いて、気温上昇が「デラウェア」の休眠覚醒、発芽、満開に及ぼす影響を予測しました(※4)。その結果、2050年まで、休眠覚醒の遅延、発芽と満開の早期化傾向が継続することが示唆されました。これらの成果から、適応策を検討する取組みを環農水研が中心となって進めていくことが、大阪府果樹農業振興計画書(大阪府、令和3年9月)に記されています。

🍇新たな生食用品種の育成

大阪で品種開発されたブドウ「ポンタ」(愛称:虹の雫)に続く、新たな生食用ブドウ品種の開発を目指して、育種に取り組んでいます。大阪のような高温環境でも栽培でき、外観や食味性に優れる品種の開発を進めています。

🍇醸造用ブドウ品種の選抜

大阪のような高温環境に適した品種選抜を目指して、栽培・醸造試験を行っています。白ワイン用、赤ワイン用それぞれに複数品種を比較し、糖度や酸度、着色性、栽培のしやすさなどに着目しながら、選抜を進めています。

着色良好な醸造用ぶどうの新品種「大阪R N-1(おおさか あーる えぬ-わん)」

報道発表資料

(令和4年3月28日付で品種登録されました(登録番号29163))

🍇波状型ハウスの自動換気装置の開発

大阪のぶどうは、斜面で栽培されていることも多く、そのような複雑な地形では波状型ハウスが設置されています。波状型のハウスは、天井部の開閉が困難で内部は高温になりやすく、ぶどうの品質低下の問題が深刻化していました。この課題解決のため、換気することで温度を低下させることができるよう、波状型ハウスの天井部やサイド部を自動で開閉できる装置を開発しました。現在は、多くの農家で、特に波状型ハウスの側面自動換気装置が導入されています。

大阪府内の農家で導入が進む波状型ハウスの自動換気装置

(左:天井面自動換気装置  右:側面自動換気装置)

【引用文献】

※1 上森真広・三輪由佳・磯部武志・細見彰洋 (2020) 露地栽培ブドウ‘デラウェア’における展葉数を指標としたジベレリン処理適期把握のための簡便なサンプリング法の検討.新近畿中国四国農業研究.3:36-45.

※2 Kamimori M., Miwa Y., Isobe T., Hosomi A. (2021) Estimation of Leaf Emergence in ‘Delaware’ Grape from Daily Mean Temperature to Predict the Optimal Timing for Gibberellic Acid Application to Achieve Seedlessness. The Horticulture Journal, 90:175-181.

※3 上森真広・三輪由佳・磯部武志・細見彰洋 (2020) 日平均気温によるブドウ‘デラウェア’の発芽日および満開日予測モデル.園芸学研究.19:175-181.

※4 Kamimori M., Hiramatsu K. (2022) Prediction of Developmental Changes due to Climate Change in ‘Delaware’ Grapes in Osaka, Japan, based on Simulated Data. Japan Agricultural Research Quarterly, 56: 389-398.

花き

■大阪の農業者の取組

    • 遮光材の設置や、潅水量や冷房時間を増加させて、高温対策をしています。

■環農水研の取組

    • 花壇苗について、高温時でも良好な生育・開花が可能な有望品種の選定と生産技術の確立に向けた試験を行っています。
    • 大阪は、2025年に、大阪湾にある埋め立て地の夢洲での大阪・関西万博を控えています。4月から10月の開催期間中は大変暑く、また湿度も高くなることが考えられます。そのような環境でも来場者を楽しませるため、高温や高湿に耐える花壇苗の品種を選定することと、万博会場に供給するための生産技術について試験を行っています。2020~2022年度までに、のべ61品目239品種の品種比較試験を行い、ニチニチソウやペチュニア等5品目では品種に関わらず良好な生育・開花を確認しました。その他の品目でも、品種によっては高温期でも栽培可能な品種を明らかにしています。

 

農作業(熱中症)

■大阪の農業者の取組

    • 熱中症予防のため、空調服の着用が増えています。作業は炎天下を回避して早朝と夕方に集中して行うことや、水分補給の注意喚起にも重点を置いています。
    • 作業負担が軽減できるよう、自動草刈り機やドローンによる農薬・肥料の散布、自動潅水機、自動運搬機の活用に向けて実証試験をしています。