自然生態系

気候変動の影響

これまでの調査の報告と将来予測

冷水性魚類

大阪府域の淡水魚などの水生生物については、水温上昇により生息地が減少することが懸念されるカジカやナガレホトケドジョウなどの冷水性魚類の分布調査を行っています。気候変動による河川水温の上昇も指摘されていますが、河川や周辺の森林などの環境改変により減少している可能性もあるため、気候変動と水生生物の関係の解明は今後も継続的な調査が必要です。

冷水を好むカジカ(大卵型)

大阪府内魚類相データの収集

大阪の淡水魚図鑑(在来種)

和泉葛城山系の天然ブナ林

府南部に位置する和泉葛城山の山頂付近には、国の天然記念物に指定されている希少な天然ブナ林が広がっています。このブナ林は分布の南限域に近く、比較的標高の低い温暖な場所に位置しているため、気候変動によって消失する可能性があると危惧されています。近年は、ブナの大木の枯死や健全な種子の激減などの衰退状況が確認されています。

大阪の岸和田市と貝塚市にまたがる和泉葛城山の天然ブナ林(天然記念物)

和泉葛城⼭系ブナ林の保全に向けた調査研究

野生鳥獣

シカやイノシシは1990年代から増加しており、現在では農林業被害が多発しています。また、シカは稚樹や実生を含む林床植生を食べるため、森林生態系にも影響を及ぼしており、分布域拡大や高密度化で森林の衰退を招いています。野生鳥獣については、被害対策や捕獲圧の変動などの人為的な要因が強く影響するため、気候変動が個体数や分布域にどれだけ影響しているかは、今後も継続的な調査が必要です。

シカにより樹皮を食害されたヒノキ

モニタリング調査(シカ・イノシシ・アライグマ)

外来生物

外来生物の侵入は自然生態系に多大な影響を及ぼしています。ペットや園芸用に持ち込まれた動物や植物、輸入された貨物等に付着していた植物種子や昆虫、船のバラスト水に含まれていた貝や微生物などは、気候変動によって日本でも越冬できるようになれば脅威となります。

生物季節観測

気象台では、生物季節観測を実施しており、サクラは開花日が早まっていることなどが報告されています。

サクラ

 

気候変動への適応策

事業者の取組

■環農水研の取組

水生生物の生息状況のモニタリング

水温上昇により減少する可能性のある冷水性魚類だけでなく、水温上昇によりこれまで未定着であった外来生物が定着する可能性も懸念されるため、調査を行い、分布を記録しています。これまでは個体を捕獲や目視で確認する調査が主でしたが、近年は環境DNA(※)を用いて生息を確認する手法を用いています。気候変動との関係については、不明な点も多く、今後も調査を継続していきます。

※環境DNA:水中などの環境に含まれる生物由来のDNAを分析・検出

野生鳥獣の生息状況のモニタリング

大阪府域のシカ、イノシシ、カラスなどの野生鳥獣については、農業被害アンケート調査、出猟カレンダー調査、カメラトラップ調査等により、生息状況や被害状況を調査しています。特定外来生物であるアライグマなども、同様の調査から分布拡大状況や被害状況を推定しています。気候変動との関係については、不明な点も多く、今後も調査を継続していきます。

森林植生のモニタリング

和泉葛城山ブナ林保護増殖検討委員会に参画し、ブナ林保全のための調査に取り組んでいます。令和元年からシードトラップを20基設置して、種子の生産量や健全度の継続調査を進めています。

ブナの種子を集めるシードトラップ

生物季節観測

気象台は一部の生物種を除き2020年でほとんどの生物季節観測を終了したため、2021年からは、国立環境研究所が「NIES生物季節モニタリング」としてそれらの生物季節観測を引継ぎ、全国の観測データの収集を開始しました。調査には地域気候変動適応センターや民間企業、個人などが参加しています。環農水研の生物多様性センターは「NIES生物季節モニタリング」に参加し、所内の敷地に観測用の標準木を植栽して2022年から観測を開始しました。2023年時点では12種の植物の開花や発芽を調査しています。

生物多様性センターにて生物季節観測を開始したヤマハギの標準木